「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」山田真哉氏インタビュー
ニュース 更新:2005.08.25(木)
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』(光文社新書)が会計の本としては異例の大ヒットになる80万部を記録した。素朴な疑問をわかりやすく読み解くことで、圧倒的な共感を得たことがヒットの一因と筆者の公認会計士・山田真哉氏は言う。これまで『女子大生会計士の事件簿』(英治出版・角川文庫)、『公認会計士萌ちゃん』(ヤングジャンプコミックス)など意表をつく切り口の書籍を発表し続ける山田氏は、一方で自身が代表を務めるコンサルティンググループを核に、日本初のLLP設立を目指している。山田氏に聞いた。(「月刊シリエズ」2005年9月号より抜粋)
素朴な疑問「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」シンプルかつ明確なコンセプトが共感をよんだ
編集部(以下・編):会計の本としては異例の大ヒット、おめでとうございます。多くの読者を獲得した要因はどこにあったのでしょうか?
山田真哉氏(以下・山田):ヒットの一因は、コンセプトが明確だったことです。当初から「あのお店はなぜ潰れないのだろうか?」という切り口から話しをすることが決まっており、そのなかで、さおだけ屋さんのお話を書くことになりました。タイトルはいつも自分で決めていますが、今回はコンセプトが明確だったので、スムーズに決まりましたね。
本は一人で作るわけではありません。編集者、デザイナー、装丁家、校閲者、情報提供者とたくさんいますので、コンセプトが明確でないとそれぞれがばらばらに動いて本質がブレてしまいます。例えば、「決算書をわかりやすく」といった漠然としたコンセプトではなく、どういう切り口でわかりやすくするのかにまで落とし込む必要があるのです。
例えば、私の本に『世界一やさしい会計の本です』(日本実業出版社)があります。やさしい本を作ろうというコンセプトが明確にあったので、「じゃあイラストは萌え系にしようか」とか、タイトルも「『~です』をつけてみようか」とか、どんどん派生的にアイデアが出てきたのです。文字の大きさやフォント、色使いもすべてにおいてやさしくなりました。
ところが、コンセプトが中途半端だと、やさしくもあり、わかりやすく、かつ詳しいといったように欲張る傾向に進みがちで、本の装丁やキャッチコピーも陳腐になっていくのです。
編:『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は最後までさらりと読めて、かつ勉強にもなると評判ですが、わかりやすく解説したり、表現するのにはどんな工夫がありましたか?
山田:難しいことをわかりやすく伝えようとすると人間はえてして説明が長くなります。例えば用語の定義などを話してしまいがちで、ポイントがわからなくなってくるのです。冗長なだけ。だから本当にわかりやすい文章はシンプルであること、いかに言い換えをするかにつきます。そしてシンプルにするためには基本的には原則を話すということです。
これは税務会計でもそうです。例外規定を話し出すときりがなくなり、初心者は迷路に迷い込んでしまいます。1%の誤解を生む可能性があるかもしれませんが、99%の原則を知らせることが大事なのです。
もちろん発言に対する責任も発生しますが、本当にお客様のためになるということは、理解してもらうことのはず。顧客本位であるならば、そうしたリスクを負うべきでしょう。覚悟を決めてシンプルに伝えることが大切です。もちろん信頼関係が築かれていないと危険ですが、原則を理解してもらった上で、例外を解説していくなど、段階を踏んで話せば、問題になることはほとんどなく、それがお客様の理解、そして満足に繋がるのです。
さらにつけ加えますと、お客様である中小企業経営者と問題や課題について話すとき、常に優先順位を聞くべきです。これを把握しないと優先順位の低いことをせっせとやってしまうこともありますし、コンセプトがブレてしまうのです。
また、経営者自身が話していく中で頭が整理されることもあります。単純に聞き手にまわるだけではなく、引き出してあげるのです。人間は「どう思いますか?」などと漠然と聞かれると脈略もなく話しますので、「優先順位の高い順からおっしゃってください」と尋ねたほうがお客様にも喜ばれますね。
編:タイトルのネーミングに象徴されるように斬新な企画をたくさん発表していますが、着想はどこから得るのですか?
山田:そうですね、自分が読者だったら知りたいと思うこと、つまり、経営で言えばお客様の立場に立つということでしょうね。
僕が『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の中で、どうして家計の話を持ち出したかというと、読者に共感して欲しかったからです。人間、共感しないと本当には理解できないんですよね。人気のある税理士先生のセミナーや講演を拝聴してもそうですが、共感性を引き出すようなうまい話し方をしています。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の80万部という数字も共感性が高かったことの証明であり、さおだけ屋はなぜ潰れないのかなあって思っていた人がたくさんいらっしゃったのでしょう。経営者へのコンサルティングもそうした会話の展開が大事だと思います。
「お客様のためにこうしてあげよう」というよりも自分がお客様の立場だったら、何を欲するかを考えます。これは本も同じで「読者のために書いてやろう」と考えるとえてして偉そうになったり、傲慢になったりするのです。読者としてどんなものが面白いのか、相手の立場に立って考えることで共感が得られると思います。
編:『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』には、奥様とのユーモアあふれるやり取りを交えて会計を解説する部分があり、これも読者の共感を呼ぶ効果がありますね。
そうですね。馴染みやすいと思います。妻はIT業界の人間で、IT系の方々の考え方がわかり勉強になります。スピード勝負の業界ですから、その人達と話していると、いかに臨機応変に考える必要があるかを痛感させられます。コンセプトも明確ですし、考え方もシンプル。だから意思決定も早いのです。
実は先日、ライブドアの社長・堀江貴文さんと対談させていただく機会を得たのですが、経営者としては過去に例を見ないまったく違う人種だと思いました。考え方がシンプルですし、要はリスクとリターンのみを考えているのです。明確すぎるために考え方が合わない人もいるでしょうが、逆に若い人にとってはわかりやすいですね。
意思決定の素早さも堀江さんは徹底しており、かなり短期的な戦略を考えているようです。1年先が限度だと言っていました。「5年後10年後なんてどうなっているのかわからないのだから、今、がんばろう」という意味だと思います。これはIT業界に限れば正論で、10年前にはITビジネス自体がほとんどありませんから、10年先もまったくわからないのです。経営者のすべてが堀江さん流を目指すのもおかしな話ですが、そうした経営者がいてもおかしくないと思いますし、ここまで徹底した方は上場企業でも多くはないと思います。そういう人が税理士・会計士業界に現れてパーっと業界を席巻することもあるかもしれませんね。
編:税理士業界の話が出ましたが、今後業界はどのように推移すると思われますか?
山田:資本主義の原理から言いますと、大手と小規模に二極化するでしょうね。これはどの業界も一緒です。監査法人、会計士業界のように中堅は拡大か縮小へ転じるでしょう。中堅規模のままでは大手には太刀打ちできませんし、小規模事務所ほど小回りは効きません。やはり中堅が一番厳しいでしょうね。中堅が生き残ることは歴史の流れからは考えにくいです。中堅だけが残っている業界って、日本にどれだけあるのでしょうか? 弁護士事務所もアッという間にビックファイブが形成されましたからね。それもここ1、2年の話ですよ。
編:最後に、税理士先生や経営者へのメッセージをお願いします。
山田:そうですね。経営者は自分で色々なことを決めたがります。例えば、目標はコレもアレもといったようにです。しかし、たくさん目標を立ててしまうとどこかで経営者自身が動けなくなることがでてくるのです。そして、従業員が不信を抱いていくのです。
若輩者の私が申し上げられる点は、今の若い人は合理的な考えをしている人が非常に多いということです。そのため非合理的なことをしていたり、経営者の理念やお題目が実際にやっていることと違ったりすると一気に離れていきます。そうしたことをすごく嫌がるのです。若い人が離れない会社にするには、いかに合理的な行動ができるかがポイントだと思います。
そこで心掛ける点が情報共有。情報を公開し、その共有の仕方もシンプルにすることで、やがて共感が生まれます。従業員や仲間達に共感してもらうことで仕事を進めやすくなるのです。
山田真哉氏(やまだしんや)
公認会計士。1976年兵庫県神戸市生まれ。大阪大学文学部史学科を卒業後、一般企業を経て公認会計士二次試験に合格。中央青山監査法人/プライスウォーターハウス・クーパースを経て、現在はコンサルティンググループ「インブルームLLC」代表。著書に『女子大生会計士の事件簿1~4』(英治出版)、『世界一やさしい会計の本です』(日本実業出版社)ほか多数。
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